キャッチ三浦の

アメリカン・シーン

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三浦  勝夫
(ワールド・ボクシング米国通信員)
息子達と

ジョーンズ落城とメイウェザーの台頭


 スーパーマンが倒れた――。もう1週間前の出来事になってしまったが、ロイ・ジョーンズ・ジュニアが痛烈に倒れ、KO負けを宣せられたシーンが目に焼きついて離れない。10年近くに渡ってパウンド・フォー・パウンド最強と畏敬される存在だっただけに、昔ジョー・フレージャーの左フックに倒れたモハメド・アリ以上のショッキング度だった。

 ジョーンズは今回のアントニオ・ターバーとの再戦をかなりゴリ押しで成立させた経緯がある。ミドル級、S・ミドル級、L・ヘビー級を制し、しかも各階級で最強の名をほしいままにしてヘビー級へ進出。最重量級のベルトも奪い、ボクンシグ界を越えたスポーツ界全体にインパクトを与え、しかも前戦ではL・ヘビー級にUターンしてまた王座に返り咲き、まさにリングの常識を越えるスーパンマンぶりを披露した。だが、筆者のスコアでもターバーが優勢だったように、昨年11月の第1戦でジョーンズはかなりの苦闘を余儀なくされた。気になったのは、ブロック、スリッピングなどでかなりかわしていたとはいえ、以前に比べてパンチの被弾数が殊の外多かったことだ。自らロープに身を置く戦法は、体力的な衰えも暗示させた。「俺はこんなもんじゃない」。きっと王様ジョーンズは、プライドを傷つけられた怒りを再戦で思う存分ぶつけたかったに違いない。

 しかし、ジョーンズが仕掛ける前に痛烈なコントラストを描いて試合は終わる。

 第1ラウンドのジョーンズは初戦の心配を感じさせない動きを見せた。だが続く2ラウンド、ターバーの放った左カウンターがすべてだった。スローモーションで見ると、ジョーンズがパンチをミスしたところに、そのフィニッシュブローが炸裂している。結果論だが、ディフェンスに定評あるジョーンズが、そのパンチを以前食らっただろうか?という疑問が湧いてくる。コンピュータ集計ではKOシーンまでにターバーがコネクトしたパンチは、わずか7発(ジョーンズは12発)。何とも効率のいい試合だったわけだ。ターバーのリベンジに懸ける執念は特筆されるものがあったが、15年間もプロ生活で、ジョーンズには知らず知らずのうちに勘などの衰えがあったのかもしれない。

 テレビのコメンテーターを務めたエマヌエル・スチュワートが興味深い発言をしていた。「ジョーンズは偉大なボクサーに変わりないが、あの大の字になったシーンばかりがファンの記憶に残ってしまうのではないだろうか」と。

その実力に比較して、イマイチ人気面でメジャーな存在になれなかったジョーンズには酷すぎるコメントにも聞こえる。試合後ジョーンズは再びヘビー級侵攻を口にし、タイソン戦やクリチコ戦を望む発言をしている。一説には、これで引退という選択肢もあるが、このまま引き下がるとは思えない。すでに地元ペンサコーラで再起宣言をしたというニュースも伝わっている。きっとプライドを人一倍重視する彼のことだから、ターバーへの雪辱に燃えているとも想像される。

 それでも長いジョーンズの時代は、これで終わったと見てよさそうだ。彼と入れ代わってパウンド・フォー・パウンド(PFP)のトップに推したいのが、昨日22日(現地時間)S・ライト級転向第1戦を飾ったフロイド・メイウェザーである。以前からPFPの上位を占めていた“プリティボーイ”だが、試合ごとの出来に大きな波があることで、ジョーンズらの後塵を排していた。S・フェザー級王座時代の最高傑作ディエゴ・コラレス戦を越えるパフォーマンスを披露できないところが、彼の停滞を物語っていた。インターネットなどを通じて伝わる地元や家庭でのスキャンダルも前進を妨げていた。

 だが、前回のフィリップ・ヌドゥを相手にしたライト級のタイトル戦と今回の前WBO王者デマーカス・コーリー戦を見る限り、この周辺のクラスで彼に勝てる選手は見当たらない――そう思わずにはいられない極上パフォーマンスを見せつけた。スピード、ディフェンススキルに、ほどよいアグレッシブさが加わり、以前ややもすると単調に見えた試合が、起伏に富んだファンを十分エンジョイされるものへと変貌している。そういえば、メイウェザーは以前、「軽量級のロイ・ジョーンズ」と称賛されたこともあった。ようやくジョーンズの後退とともに、彼に最強の称号が与えられる時期に差しかかったというべきか。

 コーリー戦でメイウェザーは後半2度ダウンを奪い、フィニッシュは逃したものの、大差の勝利。おそらく他のランカークラスの相手なら、ストップされていたはずだ。最終回のゴングを聞いたのは、コーリーの前王者としての誇りが大きく左右した。試合後のコメントで「また右拳を痛めた」と常套句を述べたメイウェザーだが、この140 ポンドクラスがもっとも力を発揮できそうな気がするし、ライバルにも恵まれている。ヅー、ガッティ、コット、ハットン、スパダフォーラ……。また彼との対戦を希望してライト級から転級しそうなフレイタスのような選手もいる。これまでも十分に実績を残したメイウェザーにしても、今後S・ライト級で実現するであろうビッグマッチの結果によって、その評価が固まるとみたい。ただ、ジョーンズが倒されたように、一歩間違えばスリリングなシナリオも用意されているのがボクシング。メイウェザーの快進撃をストップするのはいったい誰かと予想するのも、これからの楽しみの一つになる。   (三浦勝夫)

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