キャッチ三浦の

アメリカン・シーン

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三浦  勝夫
(ワールド・ボクシング米国通信員)
息子達と

第1戦は番狂わせ。火ぶたを切ったヘビー級4大戦

 ヘビー級タイトルマッチシリーズの初戦は波乱の幕開けとなった。4月10日、17日、24日と2週間の間に主要4団体のヘビー級タイトル戦が一挙に行われる。まず10日ラスベガスで開催されたウラジミール・クリチコ対レイモン・ブリュスターのWBO王座決定戦で賭け率「11−1」で絶対有利を予想されたクリチコがよもやの逆転ストップ負けを喫してしまった。

 ヘビー級は今、過度期にあるといわれる。レノックス・ルイスが引退を表明し、マイク・タイソンの去就もはっきりしない。ジョー・メシー、ドミニック・グインらの次代ホープも足踏み状態。その中でキャラクター的にも再興の旗頭的存在なのが、ビタリ、ウラジミールのクリチコ・ブラザーズだ。しかしブリュスター戦後「だった」と語尾を過去形に直さなければならなくなった。

 3ラウンドに左を食った以外、4回にダウンを奪うまでのクリチコはブリュスターを寄せ付けなかった。定石通り、左ジャブから右ストレートとスムーズな攻撃を披露。パンチを浴びるたびにブリュスターにはダメージが感じられ、試合が長引くとは思えなかった。右ショートで倒した時には「もう次のダウンで終わり」という印象にかられた。ところがこの4回終盤からクリチコの動きが急におかしくなり、最後は半分自滅するかたちで次のラウンド、キャンバスに沈んでしまった。

 クリチコ兄弟にはこれまで、その強さと同居する精神的なモロさが指摘されていた。兄ビタリは昨年のレノックス・ルイス戦でその悪評を払拭した観もあるのだが、ウラジミールは結果的に「昔のまま」だった。このWBO王座の元保持者であるウラジミールはコーリー・サンダース戦でアゴの欠点をさらけ出し惨敗。その後、売れっ子トレーナー、フレディ・ローチに指導を仰ぎ、2連勝。このブリュスター戦に備えて今度はエマヌエル・スチュワートを新コーチとして迎えていた。ウラジミール本人を含めた陣営は「これで万全」という気持ちになっていたかもしれないが、今度はスタミナ切れの醜態を露呈する最悪のシナリオとなった。

 この試合の翌日、アリゾナからタイソンがジムワークを開始するというニュースが流れた。タイソンといえば、日本でK−1のリングに上がる上がらないの話題を提供する一方で「もう体力的にボクシングでカムバックは無理」とギブアップ宣言をしたばかり。自己破産でノドから手が出るほど金に飢えているのは確かだが、現状では勝てる相手は多くない。そんな状況下で起こった伏兵ブリュスターの逆転戴冠劇。ブリュスターは昨年タイソンが秒殺したクリフォード・エティエンヌにワンサイドで敗れている選手なのだ。「待ってました…」というタイソンの声が聞こえて来そうな舞台設定となってきた。タイソンの代理人を務めるシェリー・フィンケル氏はカムバック戦の日程を7月と言っている。ともかく次代のスター候補だったクリチコ弟の敗戦が眠っていたタイソンのモチベーションを刺激する皮肉な結果となった。

 世界最強男を決するヘビー級タイトル戦が4試合も行われると聞けば、相当ゴージャスな響きが伝わってくるはずだが、残念ながらイマイチの観が拭えない。一つはベルトが4つもあることが問題。以前タイソンやホリフィールド、ルイスによって統一されたベルトが再び分散してしまう現状は、何とかならないものか。今回の4試合はバーゲンセールの様相を呈している。同時に何度も指摘されていることだが、出場メンバーに超目玉選手が不在なこともマイナス要素となる。フレッシュとはいわないまでも、ロイ・ジョーンズやジャームズ・トニーらの侵略者たちが絡めば、ファンの注目度、見る目も変わってくるはずだ。

 グチはこれくらいにして17日からの試合を占うと、IBF戦はクリス・バードはアンドリュー・ゴロタをかわして難なく判定勝ち。WBO戦は競った肉弾戦の末、フレス・オケンドがジョン・ルイスに小差の勝利。と、内容の濃さを望みたいものの、結末は見えているような気がする。この2戦には“意外性”ある展開と結末を期待したい。24日のビタリ・クリチコ−コーリー・サンダース戦はウラジミールの敗北で兄弟チャンピオンの夢が消えたビタリのパフォーマンスが注目の的。ラスベガスの結果からサンダースがクリチコを潰すシーンも想像可能で、スリリングな攻防に胸が膨らむ。年齢や体格で有利なクリチコを一応、推しておくが、弟の惨敗を目の当たりにしたビタリの心の動揺も気になるところ。少なくともビタリには弟のようなコンディション不良がないことを祈りたい。(三浦勝夫)

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