キャッチ三浦の

アメリカン・シーン

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三浦  勝夫
(ワールド・ボクシング米国通信員)
息子達と

 専門誌の生き残る道

 

 アメリカで発行されていた日本の大手新聞の現地版が廃刊に追い込まれたという。理由は日本の景気に影響されて読者の多数を占める現地駐在員の数が減少傾向にあることが挙げられているが、以前より人々が新聞を読まなくなった――つまり「活字離れ」も無視できない事実だそうだ。この出来事は我々、プリント・メディナに携わる者としては他人事としては片付けられない重大な問題である。

 以前、ボクシング情報を得るためにはまず新聞を読むことが先決だった。もちろん今でも、できるだけ新聞に目を通すようにしているが、いつの間にかインターネットを利用することが増えている。何よりニュースが早く、専門的だから情報が豊富というメリットがある。アメリカの場合、情報だけではなく、簡単なインタビューも載る時があり、なかなか利用価値がある。見逃したり、忘れていたニュースも1ヵ月弱ぐらいの範囲ならリバイバルできる利点もある。

 昨年、ワールド・ボクシング誌の増刊「ボクシング−ハイ」でアメリカの専門誌に関する記事を書いた。その後、創刊されたり、休刊になった雑誌はないようだ。おなじみのザ・リング(リング誌)をはじめ、KOマガジン、ボクシング2004、そして英国系のボクシング・ダイジェストといった専門誌がコンビニストアや雑誌スンドに並んでいる。最初の3誌は発売元が同じで、基本的にオールカラー化されている。筆者がボクシングファンになりかけた頃あった、アメリカをはじめとする世界各地の試合記録などのページはとっくになくなり、その代わり全般的にやや「回顧趣味」的だった内容が最新情報(といってもワールド・ボクシングよりは遅めだが…)が幅を利かせるようになった。

 聞くところによると、リング誌などは一時売れ行きが伸びず、経営的に苦労した時期があったという。編集方針を変え、内容を一新したことが寿命を伸ばしたといわれる。たしかに低迷期の記事と以後、現在に至るそれとは違いが感じられる。率直に言って今の方が楽しめる内容となっている。やはり、ジェイク・ラモッタのストーリーよりも、デラホーヤ−マヨルガやロイ・ジョーンズ−タイソンの仮想対決の方が読者の興味をそそるだろう。それでも必ずと言っていいほど、過去のボクサーや試合にスポットライトを当てるページがあるのはアメリカらしいというべきかもしれない。

 一般的にアメリカでは企業が経営方針の変更を迫られた時、かなりドライな行動を取るといわれる。たとえば、リング誌やKOマガジンにしても、贅肉を取り除いたというよりも、余分な手間と経費がかかるページを思い切り削除したという印象を受ける。カラーになってビジュアル的に見せるようになったのに比べ、一冊の重みというか、存在感が減ってきた気もする。また以前より編集者の手を通す原稿が減り、新聞記者などが書く依頼原稿が多くなってきた。

 インターネットによる情報発信が発達しているアメリカで、発売元がほぼ同じとはいえ複数の雑誌が発行されているのには理由があるはずだ。専門誌という立場からボクシングに興味がない人にとって知名度は低いかもしれないが、確実に“ボクシング人”を引き付ける秘訣を備えている。他のメジャースポーツの専門誌と比べても、マイナースポーツとも呼ばれるボクシングは雑誌の数でけっして劣っていない。

 すでに情報誌的な個所をインターネットに譲っているアメリカに比べ、日本の専門誌の立場は、まだ恵まれているとも思えるのだが、どこまでも安泰とは限らない。もしかしたら、アメリカの専門誌が経験した一刀両断の改革が必要になってくるかもしれない。今、人気を享受するサッカーなどは週刊誌、隔週誌、月刊誌が入り乱れる中、スポーツ一般誌でも特集を組むことが多く、専門誌の置かれている立場は非常に厳しいものがある。読者を強く引き付ける記事やよほど凝った内容でないと潰される……傍目にはそんな危惧を感じてしまう。

 海外にいると、日本の読者のニーズがいったい何なのか、すぐにつかめないところもある。あまりミーハーにならず、極端にオタクにもならずといったところだろうか。いつの世でもスターの台頭が叫ばれるが、ボクシングというスポーツの持つ魅力を伝えていく努力を今後も続けていきたい。言うは易し、行うは難し。でもこれが毎年、年頭にいつも思うことである。

 

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