キャッチ三浦の

アメリカン・シーン

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三浦  勝夫
(ワールド・ボクシング米国通信員)
息子達と


 王様の“気まぐれ”から思ったこと

 

 「ロイ・ジョーンズ? いいねぇ。何ってたってスピードがあるし、攻撃もディフェンスもスムーズ。好きなボクサーだよ」とレンターカー会社に勤める私の友人は言う。彼は特別ボクシングファンではないが、やはりジョーンズのことは知っている。さすがにタイソンやデラホーヤほどではないにしても、ヘビー級制覇で一般人にも名前が浸透しつつある。

 というわけで、彼の会社から車をレンタしてジョーンズの試合を取材にラスベガスへ行ってきた。これまでの経験から言うと、あまり期待していなった試合がすごい内容と結果に終わる確率よりも残念ながら、好ファイトが期待を裏切ることが多いように思われる。ジョーンズ−ターバー戦はけっして凡戦ではなかったものの、あのヘビー級王座獲得劇から彼に期待するものが大きかっただけに、ジョーンズのみのパフォーマンスに関しては正直、期待はずれだった。それはスコアにも反映され、筆者の採点は115-113 と2ポイント差でターバーの勝ち。「各ラウンド開始から2分間を私が制し、残り30秒をターバーが取った。それでは彼は私に勝てない」、とは試合終了直後にジョーンズが発したコメントだが、彼は周到ではなくとも(それでも勝ってしまうところはジョーンズのすごさだが…)ある程度計算しながら戦っていたことになる。

 ラスベガスで会った日本人ライターのH氏は小差ながら逆にジョーンズの勝利を主張した。その根拠は、一見すごい攻勢をかけていたいたように見えたターバーだが、ジョーンズの巧みなディフェンススキルの前にほとんどのパンチが殺されていた――というものだ。確かにそれも一理ある。私自身もラウンドによってどちらに振り分けようかなぁ、と一瞬迷った回が何度かあった。まぁ、内容は117-111 とスコアしたジャッジの一人以外は、誰もが接戦と見たはずで、同時に“王者”ターバーの善戦ぶりが試合を盛り上げたと言えよう。ただ、私が気になったのは同じH氏が「(ジョーンズは)モチベーションが低下すると、こんなにも違った選手になる」と感想を漏らしたことだ。

 L・ヘビー級統一王者時代のジョーンズは圧勝してしまう試合もあれば、スコアは限りなく開いていても、なぜか説得力に欠けるファイトがあったことも否定できない。文字通り、モチベーションが欠如した試合がいくつかあった。それはヘビー級を制して今回、再びL・ヘビー級にUターンしたことで“再現”されたのだろうか。筆者にもジョーンズは本来の力の70%ぐらいしか発揮していなかったように感じられた。本人はウェイト、減量が影響したとコメントしたが、それだけではないようだ。報酬を見ると、WBAヘビー級王座を獲得したジョン・ルイス戦は1,000 万ドル(約11億円)プラスPPVボーナスなどで巨額に達した。そして今回はその半分の500 万ドル。それがたたって?相手にほぼ存分に打たせて、“流した”ような試合ぶりになってしまったのだろうか。我々一般人にしてみれば、500 万ドルでもすごい金額だが、前回の半分の減収になれば、動きをセーブしてしまうものなのか。彼自身のキャラクターから想像すると、どうしてもそんな詮索を入れてしまいたくなる。

 ただ、もしヘビー級に留まってオファーが舞い込んだ大物たちとの防衛戦にサインしていれば、ターバー戦のように自らの体を犠牲にしなくても、相当なファイトマネーをゲットしていたはずだ。これはたとえベルトを腰に巻いたといっても、ルイス戦でヘビー級の怖さを体験したせいなのか。それともただの王様ジョーンズ気まぐれだけのせいJONES-TARVER .031108.JPG - 16,219BYTESのか。何となく筆者には今度のL・ヘビー級帰還は以前、彼が試合直前にプロバスケットボールの試合に出場したり、女性ダンサーたちと踊りながらリングに登場したことと同じ類いのパフォーマンスに思えてしまうのだ。それは彼の自己満足+目立ちがり屋の性格の成せる業と呼んだら、的外れだろうか。セルフ・マネジャーとも言われる彼が、少しでもそれで知名度をアップさせてテレビ局との試合交渉を有利に運ぼうとする意図も感じられるのだ。

 仮に今、ジョーンズのモチベーションが“底”に位置するのなら、それをトップに引き上げる相手はタイソンしかいないかもしれない。ホプキンスをお忘れ?と言われる方もいるだろうが、ターバー戦から憶測すると、ミドル級統一王者に対しても「減量がきつかった」と苦戦の理由を回顧しながら、ヒット&アウェーで勝ってしまう、非エキサイティングな試合が待っているような気がする。「あとはタイソンだけ」と引退を暗示する言葉で未来を語ったジョーンズ。周囲の状況は「まだ話が15%進展したところ」と噂の域を出でいないが、いよいよドリームカードが動き出した印象がする。

 さて、ジョーンズ−ターバー戦のスコア問題に戻ると、各ジャッジが採点した数字の開きは別にして、アグレッシブ性(ターバー)よりも的確なヒット、アウトボシングが評価を勝ち取る世界の趨勢が映し出された、と断言できる。これは何も今に始まった傾向ではないが、ラスベガスという世界の晴舞台で、改めて証明されたと言えるのではないだろうか。

 この現象を最近、日本リングで起こった疑惑判定に当てはめると、どんな結果になるだろう。筆者は採点基準における“日本式”や“アジア式”が存在してもおかしくないと考えている一人だが、日本人選手が“善戦”に留まった試合を自己のスコアから「いや、絶対○○選手が勝っていました…」と胸を張って発言するコメンテーター(元世界王者が多い)は、さすがにどうかなと思う。ボクシングの最大の魅力は豪快なKOシーンだと思って止まない筆者だが、たとえKOシーン、ダウンシーンに出会えなくとも、スキルフルな試合には感動を禁じえない。それがK−1など他の今、人気絶頂にある格闘技とボクシングが一線を画する理由だと思っている。力をセーブして戦いながらもボクシングの本質を語ったジョーンズ。やっぱりただ者ではない。

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