キャッチ三浦の

アメリカン・シーン

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三浦  勝夫
(ワールド・ボクシング米国通信員)
M.A.バレラと筆者

敏腕トレーナー繁盛記

 今、アメリカで売れっ子トレーナーといえば、西のフレディ・ローチ(右下写真)、東のバディ・マクガートが挙げられる。その一人、ローチに取材のアポイントを取ろうとしたら、現在ドイツに滞在しているとのこと。8月末再起戦のリングに立つクリチコ兄弟の弟ウラジミールをコーチしているのだという。

 今年に入り、マイク・タイソンの復帰戦を請け負ったことでも知られるローチはロサンゼルスのハリウッドで「ワールドカード・ジム」を経営し、軽量級から重量級まで、著名無名、国籍、性別を一切問わず受入れて指導。トレーナー一筋で業界を渡り歩いている。彼の存在を知ったのは1980年代の初めだから、かなり前の話だ。初めて渡米した筆者はテレビでボクシング中継を見ていた。メイROACH,FREDDY.JPG - 12,654BYTESンに登場した「白人のアグレッシブなフェザー級コンテンダー」ローチだったが、確か2ラウンドでメキシカンの強打に捕まり、あえなくKO負け。その姿がいつまでも焼きついていて、現在の“雄姿”といつもギャップ感じている。実は以前、失礼と思いながらも直接この話をしてみたのだが、彼は「あの試合を見ていたのか…」とニガ笑いを浮かべた。何となく親しみやすいのも彼が多くのボクサーから慕われる理由だろう。

 同じロサンゼルスには畑山隆則をはじめ、日本人選手との関係が深いルディ・エルナンデス・トレーナーがいる。一時は“ルディ詣で”と言われたほど、日本から彼のコーチを受けようと入門者があとを絶たなかった。名王者ヘナロ・エルナンデスの実兄で、自らもS・ウェルター級ボクサーだったルディはロスの町でももっとも治安が悪いサウスセントラル地区の“顔役”とも言われるのだが、素顔の彼はまったくそんなことを感じさせず、教え子たちから兄貴のように慕われる好漢である。また、同じジム(LAジム)で汗を流す選手には、自分の所属であろうがなかろうがバックアップを惜しまない。以前、ロス近郊で行われた試合で、当時新人だったアントニオ・マルガリート(現WBOウェルター級王者)が序盤ダウンを喫してピンチに立ったことがあった。それまでリングサイドでのんびりと観戦していたルディが、いきなりマルガリート・コーナーに陣取り、いつの間にかチーフセコンドに収まってしまったのには驚いた。明らかにルール違反? だが、コミッション席からは何のクレームもつかず、そのまま続行。結局、挽回に成功したマルガリートは判定勝利を手にした。

 ある選手が新しく実績のあるトレーナーに主従すると、何となく強くなったような、格が上がったような錯覚に陥ってしまうから不思議である。もちろん、そういった効果をねらって選手たちはスイッチするのだが、両者の相性も関係して、そのうち決別してしまうケースも少なくない。トレーナー遍歴が顕著だったデラホーヤは、ようやくメイウェザー・シニアとコンビを組んで不平不満を口にしなくなった。幸い、これまで結果を出しているからいいもの、もし次のモズリー戦で敗れたり、苦戦を強いられれば、きっと「ネクスト!」という声が彼の陣営からかかるはずだ。腕一本の商売だが、現実は厳しいものがある。

 デラホーヤの相手モズリーは、アマチュア時代から実父のジャック・モズリーがトレーナーを務める。ライト級王者に就く以前には「彼がいる限り、シェーンはチャンピオンになれない」と口にする関係者もいたが、モズリー親子は2階級制覇で、そんな批判を封印してしまった。だが、フォレスト連敗と再起戦のパフォーマンスで矢面に立たされそうなのが、ジャック。実際、モズリーには「他の有名トレーナーと契約すべき」という声が外野からささやかれている。候補者の一人にマクガートがいるともいわれた。それでもデラホーヤとの再戦まで1ヵ月少しとなった現時点で、参謀役に変化が起こったというニュースは伝わってこない。もちろん諸々の条件が絡みあっての決断なのだろうが、あくまで父とのコンビに執着するモズリーの意地にも期待をかけてみたい。

 冒頭の話題に戻ると、もしローチがウラジミールで成功すれば、レノックス・ルイスとのリマッチが有力な兄ビタリからも、今後ヘルプを頼まれるのではないだろうか。黒ぶち眼鏡の男は、ますます多忙を極めそうである。

 

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