キャッチ三浦の

アメリカン・シーン

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三浦  勝夫
(ワールド・ボクシング米国通信員)
M.A.バレラと筆者

ツッパリ・アイドル、
バルガスの魅力は「二面性」にあり

 いつもの、試合を前にした大口や試合中の激しさは微塵も感じさせず勝者はソフトな口調で切り出した。「まず、いつもいっしょにいてくれる神に感謝したい。前回の試合で負けたのに、ファンがまだ支持してくれることにも感激している。歴史的なこの会場でファイトできたことにも尊大な気持ちにさせられた」
 フェルナンド・バルガスの再起戦が7月26日、ロサンゼルスのオリンピック・オーデトリアムで行われた。チケットは発売後まもなく、7,000 シートがソールドアウト(完売)する人気沸騰ぶり。混雑を予想して早めに自宅を出たのだが、それにしてもオリンピックの前の通りがすでに通行止めになっていたのには驚いた。今年に入り、プロモーター業を本格的にスタートしたバルガスのライバル、デラホーヤがこの伝説の会場を再オープンさせ多くのファンを集めていたのだが、さすがに満員札止めにはならなかった。何故に、これほどまでバルガスはファンに支持されているのだろうか。
 バルガスといえば、そのルックスどおり、ツッパリ少年がそのまま成人したような悪童のイメージがつきまとう。自分を捨てた実父に対する憎悪をファイトにぶつけている――というようなことも平然と言ってのける。仲間たちと暴力沙汰を起こしてボクサー生命が危ぶまれたこともあった。そしてデラホーヤ戦後は、薬物使用疑惑(筋肉増強財)で罰金とサスペンドと、問題児ぶりは相変わらず。そんな暴走行為とキャラクターがファンを引き付ける唯一の理由だと思っていた。
 確かにそれは当たっている。しかし、今回のフィッツ・ベンダープール戦を前にした地元ロス周辺の彼を扱った記事を読みあさると、そればかりがバルガスの魅力でないことが明らかになる。
 ファンの一部はトリニダードやデラホーヤという強者の中の強者と真っ向勝負を挑んで善戦しながら散ったバルガスに、自分たちの生きざまをダブらせているのだという。バルガスに共鳴するVARGAS,FERNANDO030726.JPG - 6,159BYTES人々は彼と同じルーツを持つアメリカ生まれのメキシコ系か純粋のメキシコ人だ。今では普通のアメリカ人が拒否するような重労働にも日々耐えている彼らは「俺たちも何とか上昇しようと、もがき苦しんでいる。バルガスのファイトにはそんな自分と同じ宿命を背負った姿が感じられる」と声を大にして叫ぶ。常にメキシコ人への血のこだわりを強調するバルガスが彼らのアイドルとなる所以である。デラホーヤだって同じメキシコ系で、今年に入ってメキシコ国籍まで取得したのだが、ある面でもっと“カッコいい”のがバルガスなのかもしれない。
 また、非行少年のような危なっかしさと向こう見ずさを持っているいる反面、素顔のバルガスは想像できないほどの心優しき若者なのだという。あるエピソードでは重病に苦しむファンに率先して面会に出向き、励ましの言葉を送って生きる糧を与えたりしている。今回の一戦にも、遠くアリゾナ州あたりからも多くのファンがかけつけ、彼の人気と人柄を忍ばれたものだ。
 さて、今後のバルガスの動向だが、今回の一戦を見る限り、暫定王者カスティジェホや上位ランカーにはまだ打ち勝てる力があるように感じられた。会見ではデラホーヤとのリマッチの可能性に関しても質問が飛んだが「自分にはもっと試合が必要。スタイルももっとベターなものに改良してから臨みたい」と言葉を残した。ファンは再び彼の格闘する姿に酔い、アリーナへと足を運ぶことになる。巨星フリオ・セサール・チャベスの歩んだ道を継承したいと公言するバルガス。“フェローシャス”(残忍な)というニックネームだけに惑わされては、彼の本当のファンにはなれないようだ。

 

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