キャッチ三浦の

アメリカン・シーン

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三浦  勝夫
(ワールド・ボクシング米国通信員)
M.A.バレラと筆者

 クリーンイメージを掲げるIBFの今後


 最近のニュースの中で、IBF(国際ボクシング連盟)の世界ライト級王者ポール・スパダフォーラの王座返上が同団体会長マリアン・モハメド女史によって受理されたということと、IBF世界フェザー級王者フアン・マヌエル・マルケスに対して指名挑戦者ウイリアム・アベルヤン戦を義務づける通告が王者を擁するトップランク社へ送られた、というものがあった。今からちょうど20年前の1983年、プエルトリコのサンファンで開催されていたWBA総会で、反旗をひるがえしたボビー・リー氏が彼の賛同者たちとともにWBAを脱退。当初USBAI(全米ボクシング協会国際部)という名称だった新統一機関は、その後IBF(国際ボクシング連盟)に生まれ変わり、第3団体ながらアメリカを中心に勢力を拡張していった。
 それまでWBA、WBCと中南米主導型に傾いていた勢力図に不満を抱いていた人々が、広大なマーケットを誇るアメリカに力を復権させた――という見方もできるのだが、ボクシング・ビジネスの複雑さは、それほどシンプルなものではなかったようだ。いろいろな人間の思惑と利害が絡み合い、徐々に団体の骨格が形成されていく。初期には韓国で発生したニセ挑戦者事件のようなスキャンダルに見舞われる経験した。いずれにせよ、中量級から重量級にかけて名チャンピオンが誕生したことがIBFをメジャー団体の一つに仲間入りさせた最大の理由に思える。今をときめくロイ・ジョーンズやバーナード・ホプキンス、そしてジェームズ・トニーといった王者もIBFのベルトを獲得し、大成した選手たちだ。現チャンピオンたちの質も、老舗のWBAやWBCと比較しても勝るとも劣
らない。
 設立当初、軽量級マーケット拡大をアジアに求めたIBFは韓国、インドネシアなどに続々王者が誕生したものの、日本では業界が保護策をとったこともあり、いまだに未公認団体のまま。その後韓国も拒絶反応を起こし、現在はタイ選手が何人かランキング入りしている程度。しかし何といっても、IBFの最大の打撃は創立者リー前会長の収賄事件だ。FBI(皮肉にも初めと後の文字を入れ
替えただけ)の捜査でリー氏は逮捕され、3年前から刑期を務めている状態である。

 一時は統括団体で最大の勢力を誇るWBCを追従するともいわれたIBFだが、ロバート・リー・スキャンダルで大きな打撃を被り、より新興のWBOの後塵を排する段階まで落ち込んでしまう。団体存続の危機に直面したこともあった。だが、最近のIBF関連のニュースはしきりにクリーンなイメMUHAMMAD,MARIUM.JPG - 10,165BYTESージを打ち出している様子がうかがえるのだ。その顕著な例が各クラスの指名挑戦者決定戦である。1位あるいは2位も空位にして、決定戦で勝った者をそこに座らせるという取り決めが徹底されてきた。このルールを強行するゆえにヘビー級王者レノックス・ルイスは王座を返上、L・ヘビー級統一王者だったロイ・ジョーンズはタイトルはく奪の憂き目に遭ったが、確固たるポリシーが貫かれ、タイトル管理に対する私情を廃した公正な態度が感じられる。反面、タイトルが懸けられなくともマネー優先という最近の傾向からすれば、うっとうしく受け取られても仕方あるまい。どれだけの王者が勧告に従うのかで、現時点の団体の力が測定できるといったら、見当違いだろうか。
 20周年を記念して、今年のIBF総会はサンファンで挙行された。会期中に会長選挙が行われ、マリアン女史(上写真)の留任が決まった。他のメジャー3団体も代表を送り、今後も協調路線を敷くことで合意に達したという。人気ボクサーのマッチメークに大きな影響力を持ち出したHBOに代表されるアメリカのテレビ局。時代の趨勢に対して同じアメリカに本部を置くIBFがどんな政策で対抗するのかも気になるところ。クリーンながらドライ。軋轢も生じるだろうが、リー色を払拭した冷徹な指名試合強制策は今後も続行される気配である。

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