前田 衷
後楽園ホール「ボックスシート」の夢 =上=
リングを四方に囲む観客席の前から2列目までの特等席。これが後楽園ホールの年間指定席、「ボックスシート」である。世界タイトル戦を除き、ホールで行われるプロボクシングの全試合を決まった席で観戦できる。ここに座ってボクシングを観ることが、何十年も前、少年フアンだった頃からの憧れだった。その思いは今もある。 こんなふうに書くと、「いつも記者席で見ているくせに、何をぜいたくな」とお叱りを受けそうだが、記者席で試合を観戦するのと観客席で観るのとでは、居心地がまるっきり違う。記者席は筆者にとってあくまで仕事の場であり、いくらリングに近い「いい席」ではあっても、純粋にボクシングを楽しむわけにはいかないのである。第一に、記者席では大声で野次を飛ばすわけにもいかない。だからこそ、試合中に記者席後ろのボックスシートで絶叫歌人・福島泰樹さんが「ジャッジはちゃんと採点しろよ!」などと通りのいい声で”口撃”するのが聞こえたりすると、「いいなぁ、好き勝手言えて・・」と、ついつい嫉妬と羨望の念が募るのである。「ボックスシート」というと聞こえはいいが、椅子そのものは他のリングサイド席と同様簡易な折り畳みのパイプ椅子で、お世辞にも座り心地がいいとはいえない。これで苦情が出たという話も聞かないから、ボクシング・フアンは鷹揚なものである。それでも、椅子の背の当たる部分に所有者の名前が入り、自分の席はどこだろうかと探すこともなく、一目でそれと分かるという特権もある。今でも「ボックスシートで気楽に観戦」は私の見果てぬ夢である(どうやらそれは叶うことのない夢となりそうなのだが・・)。 ところで、ボックスシートで観戦するのはどのような人たちなのだろうか。協会に聞くと、その約3割が業界−−つまりジム関係が確保しているという。会長の指定席であり、時には接待した後援者らに座ってもらう。当然ビジネス用である。赤コーナー下のジョー小泉さんの席などもやはり「ビジネス用」だろう。他に企業等が接待用にキープしている席もあるが、この不況下でずいぶんと減ってしまった。そして、残りの6割以上の席を占めるのが、純粋なボクシング・フアンたちである。 ここに座るフアンは、おそらく経済的にも精神的にもリッチな人たちであるに違いない。ボクシングを愛し、心底楽しむことができる人たちである。ボックスシートを確保するために50万円前後の代金をポンと支払うことができるだけでなく、頻繁に行われる試合をほぼ最初の4回戦から観戦する時間的な余裕もある。これだけでも羨ましい。名前は知らなくても、毎試合顔を合わすので”顔なじみ”になった人も多い。 さて、フアンの憧れの場所であるボックスシートも、業界にとってはフアン・サービスのためではあっても、増やしたくない席という。なぜなのか−−?
(以下、次週に続く)
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