バトルホークの闘病報告 vol. 4

林 直樹

 奇跡を信じて

 3月26日(金曜日)
 風間さんは22日に北千住の病院から退院して、自宅に戻った。
 命を賭けた”秘密兵器”の実行は「奇跡」への突破口になるかもしれない。そんな期待感が少しなのだが、膨らみつつある。
 もし”秘密兵器”が効いているのであれば、これはとてつもなくすごいことで、今までのがん治療の前提を根底から覆すものになるかもしれない。
 この日(26日)、自宅にお邪魔した時、風間さんは少なくとも1週間前の外見とは違う、たくましさが戻ったように感じた。
 「25日に国立がんセンターに行って、血液検査をやってきた。担当の先生が驚いていたよ。血液検査で見る、ポイントとなる数値が、それぞれ良くなってたんだ」
 これだけで、すぐにこの”秘密兵器”が効いているのか、どうかは即、断定的に判断できない。しかし、風間さんは、感覚的に手ごたえを感じている。
 一番心配していたのは、風間さんの場合、がん細胞が動脈に浸潤している。そのため、刺激の強い”秘密兵器”を使うことで、がん細胞が反撃に出て、動脈を破り、出血多量で命を絶たれることだった。実際、この秘密兵器を使って、胸がかなり痛みを増した時、止めようとも思った。しかし、一か八かの捨て身の勝負をしている。
 この秘密兵器を17日から初めて、3日やって1回休むというペースでやっていたという。25日の国立がんセンターでの血液検査前にそれを2度実行した。
 「3日に1回というのは、温泉に入って療養する湯治(とうじ)の名人がやっていたペースを取り入れただけ。それ以上の特別な理由はない。”秘密兵器”が体中で闘っているという感覚、手ごたえを感じている」
 風間さんが、この”秘密兵器”を実行しようと決断しのは、いたってシンプルな理由からだった。ある日、手にできていたイボに、その”秘密兵器”をこすり付けたことで、コロリと取れたという。さらに水虫にも効いた。「イボや水虫に効くくらいの強烈な効き目があるのなら、体の中のできもの(がん細胞)にも効くはず」というのが実行のきっかけになったという。
 最初の3日間は少量から始めた。そして1日あけて、2度目の時には、龍角散をまず飲んでから実行した。「龍角散でがん細胞が付着している部分の粘膜をまず取り除き、直接、がん細胞と”秘密兵器”を勝負させる」ボクシングにたとえるなら、ノーガードで倒すか、倒されるかの打ち合いに出た。風間理論は、この”秘密兵器”がイボコロリのように、がんコロリをやれるというものだ。
 ボクは、医師じゃないから、医学的にどうなのかを判断することはできない。しかし、奇跡への期待が気持ちの中で大きく膨らみ「がんばれ」と応援しつつ、幸せな気持ちにもなった。
 「もし、これが本当に効いているのなら、例えば胃がんとか大腸がんとか、そういう人にも効くかもしれないな」
 とりあえず1週間あけて、4月5日から再び3度目を実行する予定だ。その後の血液検査の数値が劇的なものであって欲しい。
 話は変わるが、ボクがボクシングの一ファンになったのは、モハメド・アリの存在だった。1974年10月30日。ザイールのキンシャサで、当時の世界ヘビー級王者で、負け知らずの史上最強のKOパンチャー、ジョージ・フォアマンにアリが挑んだ。大方のボクシング関係者の予想は、早いラウンドでのアリのKO負け。アリはフォアマンの必殺パンチで、死ぬのではと危惧する関係者もいたという。しかし、アリは、ロープを背負いながら、フォアマンの攻め疲れを待ち、訪れた8ラウンド。勝負と見たアリは、目にも止まらぬ蜂のように刺す右ストレート1発で、フォアマンをキャンバスに沈めた。あの時、アリは沈みいくフォアマンに、駄目押しのフォローのパンチをあえて出さずに、アリ流の「KO美学」を全世界に見せつけた。世に言う「キンシャサの奇跡」をボクは、14歳の時にテレビで見て、鳥肌が立ち、その夜は興奮して眠れなかった記憶がある。
 1991年に一度だけフォアマンに話を2人きりで聞くチャンスに恵まれた。フォアマンは「アリがロープを背負う。あの時、私は麻酔剤(ドープ)を全身に打たれた感じで、どんどんスタミナを消耗していた。そして試合が進み、彼の経験の前に私は負けた」と振り返っていた。
 こういう奇跡はめったに起こり得るものではない。
 あの時にアリが見せたくれた世の中の常識を覆す奇跡を、風間さんがもう一度、見せてくれるかもしれない。そんな夢と希望を、風間さんに託している。「奇跡よ起これ!」心でそう叫び続けている。(続く)
 [注]”秘密兵器”と表記しているのは、別にもったいぶっているからではありません。この闘病報告を読まれている方には、大変、申し訳ないです。しかしこの秘密兵器は、今、風間さんが”人体実験中”、仮に秘密兵器を「これです」と表記することで、他のがん患者の方がトライするには、まだリスクが大き過ぎるという判断からです。さらに本当にそれが効いているかを断定できていないためです。

 PS;この闘病記を読んでいただき、メールで送られてきた激励メッセージを風間さんに届けています。みなさまの温かいメッセージを風間さんが読み、間違いなく苦しい闘病中の特効薬になっています。多謝。

(続く)

 ※読者の皆様へのお願い
風間さんは今、ギリギリのところでがんと闘っています。その闘いはものすごく険しく、厳しいものです。皆様の応援メッセージ、激励メッセージをお待ちしています。皆様からのメールを風間さんにお見せして、エネルギーにしていただこうと思っています。よろしくお願いいたします(林)。

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