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ゲストコラム : トレーナーの目 vo.1

石井 敏治 (新日本木村ジム・トレーナー)

技術の裏づけがあってこそボクシングである

 懐古趣味といわれるかもしれないが,最近のボクシングを観ていると,つい往年の名ボクサーといわれた記憶に残る数々のボクサーが活躍していた時代のリングを懐かしく想うのである。当時は採点基準も現在とは違っていたように思う。
 現在の,採点基準はルールの上では1.クリーン・エフェクティブ・ヒット 2.アグレッシブ 3.ディフェンス 4.リング・ゼネラルシップの順位で,これらの総合で勝る方が勝者になる。3では効果的な防御で且つ攻撃に結びついたものでないと採点されないことになっている。こう見ると昔と大差ない採点基準であるが,現在の試合を観ていると,2が最重視されているように思える。
 これは,国内,WBA,WBCを問わず,必ずしも有効打を伴わなくても最優先的に評価されていると思うのは私の偏見であろうか。一方がこれといった有効打もなく終始押され気味で,一方がとにかく前に出てグローブの上,アームに打撃を与えていたとした場合は,前に出ていた方が勝のは当然だが,フットワークを使って後退する場面の多い方が,単発ではあるが的確なカウンターを時折決めるが,ふらつかさせる程のダメージは与えていない。一方は常に前に出てフックを主体とした打撃が多いが,的確に急所を捕らえることが出来ない,そのパンチの多くはカバーしたグローブの上,腕に当たっている。このような場合でも前に出ている方が勝つのをよく見る。このようなケースは4回戦,6回戦に多い。
 プロボクシングであるからにはリングで激しくパンチの応酬があってこそ集客力があるので,激しく打ち合って戦ってこそこの競技の真価があるのは理解できるが,そこにはテクニックなりスキルが織り込まれていなければならない。単なる殴り合いであってはならない。これこそボクシングだと観客の興味を満喫させ得る格調の高い格闘競技を具現化するにはどうすべきか,その答えはこうだ,当然のことながら,ジムにおいて指導者が,ルールに忠実に採点することが出来るようなボクサーを育成することに尽きる。十分時間をかけて基本技術を習得させる。特に重点を置くのは,ナックルで的確にヒットさせる。ややもすると攻撃面重視を注意して,攻撃を伴った防衛技術も入念に教える。ボクシングの技術は誠に奥が深く,一つ一つ習得すれば,選手の興味も自ずと沸いて来る。習得した技術と培われた闘志の発露をリングに求めてこそ,4回戦でも十分に観客に感銘を与える試合を披露することが出来る。技という裏打ちがあっての力強さがボクシングの真髄だと思う。
 現在,時折見かける試合で,何をもって得点とすべきか迷うような試合がある。その時担当したジャッジの苦悩が理解できる。このようなシーンもなくなるであろう。自分の反省も含めて拙い文章を披露する次第です。


現在も新日本木村ジム・トレーナーとして指導に当たっている石井氏

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