ショーセイの新米ジム会長奮戦記

新田 渉世 
(元東洋太平洋バンタム級王者)


  セコンドデビュー2

 ついに新田ジム初のプロデビュー戦の日がやってきた。控え室では、孫トレーナーが石井フランシスと竹内俊介のバンデージを巻き、私が西禄朋を巻いた。昨夜、薄暗いジムで何度も練習した巻き方とはいえ、不慣れな手つきは否めない。孫と私は、選手をリラックスさせる為に世間話や冗談を言ってみたり、余裕のあるふりをしていたが、心の中では冷や汗をかいていた。
その日の興行でトップバッターを務めることになった30歳のフランシスは、若い頃フランスでアマチュア戦を数多く戦った実績を持つ。初心者ばかりの新田ジムでは最も完成度の高いボクサーだった。入場音楽が鳴り響き、孫、坂本、両トレーナーと私は、フランシスと共にスポットライトの中へ身を投じた。
初めてのリング入場で、我々は地に足が着いていなかった。「滑り止めの松脂(まつやに)がない!」あたふたする私に、近くにいた関係者が「階段の下だ―」と無機質な口調で教えてくれた。フランシスは、うがいの為に口に含んだ水をどこに吐き出してよいのか分からず「うー、うー」と唸っている。何から何までぎこちない。
 とにかくリングに上がったフランシスは、選手紹介のアナウンスと共に華麗なステップで観客に答えた。そして記念すべき第1ラウンドのゴングが鳴り響き、フランシスは我々の手を離れた。初めて襲われる不安―。自分が選手の時には味わったことのない、どうしようもない不安に襲われた。あの小さなグラブで自分の選手が打たれる痛みは、これまで想像も出来なかったほど私自身に鋭く突き刺さってきた。
スピードで相手を圧倒していたフランシスだったが、気になっていた低いガードをかすめて相手の左フックが綺麗に日仏ハーフのアゴを打ち抜いた。「あ・・・」木が切り倒されるようにゆっくりとキャンパスに横たわったフランシスは、下がった眉毛でこちらを見た。「フランシス、大丈夫だ。落ち着け!落ち着け!」一番落ち着いていなくてはならない私の眉毛も下がっていた。何とか立ち上がったフランシスだったが、そのまま連打を浴びて崩れ落ちていった。初陣で厳しい洗礼を受けた我々は、とぼとぼと控え室に退却した。
 2番手の竹内は、打ちつ打たれつの激しい試合を制し、最終ラウンドテクニカルノックアウトで歓喜の雄叫びを上げた。
 殿(しんがり)の西は、試合前の激しい睨み合いで観客を沸かせ、フルラウンドの“どつき合い”を僅差の判定でものにした。
 長く苦しい時間が終わり、私はぐったりと控え室のベンチに座り込んだ。胃はキリキリとまだ痛い。孫はテキパキと後始末をこなしている。本当に頼もしい男だ。私にもまだ“招待客への挨拶”という大切な仕事が残っていた。
 全てを終えて女房と共に帰宅した時、自分の現役時代のことを思い出していた。「何だか自分がやるより大変かもしれないな・・・」ふたりで顔を見合わせ、すこし眉毛を下げながら「ハハハ・・・」と笑い合った。

 新田ジム 最新情報

・4/25(日)ドリームジムの三浦利美会長を新田ジムにお招きし、選手や練習生達に対してボクシング講義をしていただきました。ロードワークの重要性や、練習方法の工夫など、90分にわたる熱いトークに、大勢集まった新田ジムのメンバーは真剣に聞き入っていました。
・4/26(月)後楽園ホールで行われた「トクホンVダッシュ第57弾」にてデビュー戦に出場した2選手の結果をお知らせします。
契約65.6kg ○笈川慎也(新田) 4R判定 ●高橋マサル(花形)
フェザー級  ●岡田祐也(新田) 4RTKO ○高久祐樹(ひたちなか)

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新田渉世(にった・しょうせい) 
87年、横浜国大2年の時にプロデビュー。96年10月にOPBFバンタム級王座を獲得し、「国立大卒初の王者」としても話題となった。
34戦23勝(17KO)9敗2分

新田ボクシングジム   
神奈川県川崎市多摩区登戸2832 小田急線向ケ丘遊園駅徒歩5分
TEL 044-932-4639
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