ショーセイの新米ジム会長奮戦記

新田 渉世 
(元東洋太平洋バンタム級王者)


ゾーッ、ピストルは本物だった!

 銃を突きつけられ、顔や腕をガムテープでぐるぐる巻きにされ、絶対絶命のピンチ・・・。「サイフダセ!サイフ!」「ケイタイダセ!」―強盗達はたどたどしい日本語で我々に強要してきた。逆らえば安全の保証はない。反撃のチャンスもほとんど無くなってしまった。現役時代にスロースターターだったことを一瞬後悔した。
「もしかしたらオモチャのピストルかも知れないですよね。」上司にそう言ってはみたものの、そんな淡い期待は現状を解決する為には何の役にも立たない。顔に巻かれたガムテープの隙間からは別の客があと2人入ってきたのが見えたが、やはり同じように銃を向けられ、ガムテープでぐるぐる巻きにされてしまった。しばらくすると強盗達は我々を全員店の一番奥へ連れて行き、もう一度念入りにガムテープを巻きなおした。これで完全に目隠しをされて何も見えなくなってしまった。後は全員撃たれるか、火でもつけられて皆殺しか・・・。ジム開設に向けてスタートしたばかりだというのに、こんな死に方はないだろう!
どれくらい時間が経ったのか。いつの間にか何の物音もしなくなった。「ワァァァ!!」ひとりが急に大声を張り上げた。なんの反応もない。強盗達が去ったことを確信した一同は、各々ガムテープをはがし始めた。お互いに顔を見合わせて無事を確認した。誰かがビルの非常ベルをならし、ひとりが階下へ降りて警察へ通報した。店のママらしき人と従業員5〜6人は肩を抱き合って泣いていた。
程なく警察が到着し、現場検証がおこなわれた。我々は詳しい事情聴取の為に警察署に連れて行かれ、ようやく終電で帰宅することが出来た。私の被害は現金1万7千円。命に代えれば、いやこれから築いてゆくジムとそこから生まれてくるであろうすばらしいボクサー達に代えれば安いモノだ。やはりジム開設は何としても成し遂げなければならない使命なのだ!―と都合の良い解釈にわが身を震わせながらその夜は眠りについた。
事件から2ヵ月程経過し、記憶が薄らぎ始めていた頃に警察から再び連絡が入り、担当官が内装中のジムまで訪ねてきた。「犯人が捕まりました。新宿でヤクザを撃ち殺して逮捕され、新田さん達の事件についても自供したんです。」―やはりあれは本物の銃だったんだ。スロースターターで良かった。「新田さん、元チャンピオンでも相手が悪かったですね。やつ等は軍で訓練を受けたプロの殺し屋だったんですよ。ヤクザを殺った時も素人業じゃなかったらしいですよ。」―閉口した。そしてその数日後、霞ヶ関の東京地方検察庁へ出向き、立件の為の最終聴取に協力した。
通常経験することない奇妙な出来事に遭遇し、今回のジム開設に特別な意義を感じてしまったのは少々自意識過剰だろうか・・・?

▼新田ジム 最新情報
 プロテスト合格第1号の石井フランシスが、日本ボクシングコミッションにライセンス申請をおこなった。デビュー戦はまだ具体的ではないが、10月頃に予定している。
 6月8日(日)は、角海老ボクシングジム親善スパーリング大会に、西禄朋(23)、竹内俊介(22)の2名が出場し、それぞれ判定、KOで勝利をおさめた。竹内は先月(5月)JBスポーツクラブでのスパーリング大会に続けて2連続KO勝ち。

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新田渉世(にった・しょうせい)
87年、横浜国大2年の時にプロデビュー。96年10月にOPBFバンタム級王座を獲得し、「国立大卒初の王者」としても話題となった。
34戦23勝(17KO)9敗2分

新田ボクシングジム   
神奈川県川崎市多摩区登戸2832 小田急線向ケ丘遊園駅徒歩5分
TEL 044-932-4639
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