リングサイド・ビュー

前田 衷

メインディッシュ以外にも金をかけてほしい
 豪華メニュー「10・4・トリプル・プラス2」の魅力

 10月4日東京・両国国技館で予定される豪華興行「トリプル・プラス2」の前売りチケットが、今日11日から発売されている。これで会場が一杯にならなかったら、日本のボクシング界もちょっと困ったことになると懸念しているところだが、電話の予約などこれまで以上にいいというから、まずはひと安心だ。
 西岡利晃−ウィラポンの3度目の対決となるWBCバンタム級戦を筆頭に、アレクサンデル・ムニョス−本田秀伸のWBA・S・フライ級戦、戸秀樹−レオ・ガメスのWBA・バンタム級暫定王座決定戦−−。トリプル世界タイトル戦は、日本ではこれが2度目で、やはり帝拳プロモーションが初めて手がけた1998年横浜アリーナ(辰吉−アヤラ戦他)以来となる。
 さらに今回はトリプル世界戦に加えて2つの興味深いカードが用意されている。ひとつは元日本ライト級王者リック吉村対長嶋健吾のサバイバル戦。もうひとつは、関西の技巧派・佐竹政一がベネズエラの倒し屋リチャード・レイナと対戦するL・ウェルター級10回戦。この日の前座試合は予備カード以外なしというプログラムである。
 まさに「豪華カード」という言葉がピッタリくる五大戦である。それぞれに見どころが多い。対ウィラポンで「3度目の正直」を狙う西岡。過去の2戦は、最初は判定負けだったが、2度目は引き分け。対戦するごとに両者の差は縮まっている。今度はさらに好結果を期待したくなるのが人情というものだ。本田が23戦全KOのムニョスに挑戦する一戦も興味深い。記録はパーフェクトながら、ボクシングには穴も見られるムニョスに対し、今の日本を代表するテクニシャンがその強打を封じて2度目の世界挑戦をモノにできるか。戸−ガメス戦は暫定タイトルだが、タイトルが懸かっているかどうかは二の次にしても、戸が3年前にKOでベルトを奪われた相手に対しどうリベンジ戦を挑むかという見どころがある。 
 この五大戦をバラして、ひとつずつメインにした興行をやっても、それぞれ観客を動員できる力のあるカードばかりである。「プラス2」の方はさすがに国技館は無理でも後楽園ホールならまず満員になるだろう。これだけ盛りだくさんのカードで、会場の観戦料金は通常の世界タイトル戦興行と変わらない(リングサイド3万円から最も安いスタンド席で5千円)。いつも前座カードが貧弱な世界戦に足を運んでいるファンには、ずいぶんと割安感を感じるのではないだろうか。
 ボクシングは真剣勝負であるがゆえに、好カードが必ずしも好ファイトになるとは限らない。互いに相手を警戒しすぎて期待外れの凡戦になってしまうことも当然あるのだが、複数タイトル戦のいいところは、運悪くひとつが凡戦になったとしても、他のカードの熱戦がカバーしてくれることだ。特が、残りの純粋なボクシに今回は「ボクサー対ファイター」あるいは「ボクサー対パンチャー」という試合が面白くなるような組み合わせを意識的に作っている。日本屈指のディフェンス・マスター佐竹に、11勝10KOの”ベネズエラのタイソン”レイナを組み合わせたのもそのひとつ。「私自身が見たいカードを選んだ」とプロモーターの本田明彦・帝拳ジム会長が言っているように、試合前から結果が分かるようなカードはひとつとしてないといっていいだろう。
 複数世界タイトル戦といえば、アメリカでは3つ、4つと一遍に挙行されることも珍しくない。しかし実体はといえば、前座の世界タイトル戦が行われている頃、客席はガラガラで、観戦しているのは関係者のみというような寒々とした光景を目にすることも珍しくないのだ(しかもノーテレビということも少なくない)。プロモーターが契約下のチャンピオンに約束通り試合の機会を与えるために組んだ”消化試合”のようなものもある。人間はなんともぜいたくなもので、いくら豪華メニューの複数世界戦が用意されていても、観客のいない会場で行われている前座の世界戦にはついありがたみを感じなくなるものだ。元々ラスベガスのファンは純粋なボクシング・ファンGODAI FIGHTS HAPPYOU.JPG - 14,071BYTESではない。タイソンやデラホーヤらスーパースターを見たい、これはギャンブルの息抜きにショーを見るのと同じ感覚なのだろう。ボクシング・ファンなら垂涎の好カードが前座で行われていても半分も埋まらないのに、お目当てのメインカードが始まる直前の夜8時9時頃になるとアッという間にギッシリ満員となる。これにはマジックでも見せられているようで、いつもながらあきれてしまうのだ。
 その点、日本でもリングサイドの一画にはそういう観客もいるかもしれないが、比率からすればはるかに少ないはずだ。出場選手の後援者たちもかなりの比率を占めるだろうが、残りの純粋なボクシング・ファン。実はこの純粋なファンがどれだけ会場に足を運ぶかが、興行の成否に大きく影響するのである。決して安くないチケットを購入して会場にやってくるファンには、少しでも楽しんで帰途についてもらいたい。見て満足を覚えれば、彼らは再び試合場に帰ってくるだろう。そのためにも、メインディッシュだけ金をかければいいというものではない。ボクシング関係者には一層の「営業努力」を望みたいものである。

 

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