夢かうつつか、酔いどれ記者が行く  芦沢 清一
『 酔いどれ交遊録 』


 高橋美徳さん

 世界王座養成の秘訣は“猫だまし”?

 

 ロイヤル小林、レパード玉熊、セレス小林と、3人の世界チャンピオンを育てた国際ジムの高橋美徳会長は、選手作りの名人と言って間違いないだろう。1ジムから3人の世界チャンピオンを作ったのは、高橋会長が現役時代に所属した三迫ジムの三迫仁志会長、大阪帝拳ジムの吉井清会長と高橋さんの3人だけで、数比べで言うと3位タイである。ジム別の世界チャンピオン輩出で、最も多いのは協栄ジムの9人で、2位はヨネクラジムの5人。
 どうも世界チャンピオンが生まれるジムは、片寄っているようだ。3人に次ぐ2人の世界チャンピオンを出したジムは帝拳、角海老宝石、グリーンツダ、松田、緑、横浜光の6つである。一番新しいイーグル赤倉まで、日本のジムから出た世界チャンピオンは、外国籍のボクサーを含めて48人であるが、このうち複数形の王者が35人、単独形が13人。ちょっとオーバーだが、世界チャンピオンは、出るジムから出る、出ないジムからは出ないという法則が成り立つのだ。
 世界チャンピオン作りの名人には、2つのタイプがあるような気がする。米倉会長のように自らミットを持って選手に技術をたたき込むのが1つのタイプ。協栄ジムの金平正紀先代会長や吉井会長は、人使いの巧さ、ビジネスの巧さで世界チャンピオン作りをした。
 高橋会長はどちらかというと、米倉会長タイプである。私が初めて国際ジムに取材に行った30年以上も前のこと、若かりし高橋会長が、剣道の胴充てのようなものを上半身に装着して、選手にパンチを打たせていたのを思い出す。自ら考案した練習道具だった。ことほどさように、高橋会長はアイディアマンなのだ。
 セレス小林のコーチを三浦トレーナーに任せていたように、64歳になった今は、自らミットを持つことはなくなったが、独特の技術論を、トレーナーを通じて各選手に浸透させていることが、つい最近分った。独特のテクニックというのは、リードブローにフェイントをかける術。相撲でいう“猫だまし”のようなものだ。
 国際ジムの選手はすべて、この技術をマスターしようと努力しているが、ただ1人、へそ曲がりのトラッシュ中沼だけは、これを習おうととなかった。昨年夏、東洋太平洋フライ級チャンピオン小松則幸(エディタウンゼント)に挑んで敗れた後、高橋会長に「あれを教えて下さい」と頭を下げて改心はしたのだが、今年の正月、ポンサクレック(タイ)の持つ世界タイトル挑戦には間に合わず、涙を呑んだ。名人の言うことを、もっと早くから聞いておれば…。私はそう思うのだが、4人目を逃がした高橋会長は、なおさらに違いない。

 

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